絵画の中のかご②カラヴァッジオの「果物籠」

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カラヴァッジオの「果物籠」です。

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Category:Basket of Fruit by Caravaggio - Wikimedia Commons

「果物籠」/ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ

Michelangelo Merisi da Caravaggio、1571-1610)

前回取り上げたオランダ絵画の黄金時代よりも少しだけ早い、1595〜1596年の作品です。修行時代を終えて実力を備えたカラヴァッジオの、まだ若い頃の作品。 

いいですよね。 果物の描き方や画面構成は言うまでもないことで・・見たことなかったのに、なぜかすでにここから影響だけは受けていたなと思ってしまうような絵です。

 

カラヴァッジオといえばイタリアのバロック期の巨匠で、複数の人々からなるやや宗教的な演劇の一場面のような絵、薄暗い部屋でスポットライトを浴びたように浮かび上がるドラマチックな場面の絵、を思い出すので意外な気がします。

他に存在している数枚の静物画の中でもこのちょっと乾いた感じは異質です。 

調べるとこの絵、ここから静物画が始まったとか、静物画というジャンルが始まるきっかけになったとかの言われ方がかなり一般的にされている絵なのだそうです。 

美術史の中でそんな重要な意味を持つ作品に籐のかごが描かれているということ、籐工芸をやっている方々にぜひお知らせしたい。

 

その籐のかごは4本一組の材を使ったうろこ編みという編み方。

上品な華やかさのあるかごですね。

形も雰囲気もいいですし、綺麗な編み目ですが微妙に不揃いな感じも陰影で表現されていて、かご愛がわかる人にはわかるように描いてもらっていると思います。

 

カラヴァッジオの作品の中でかごが描かれた絵は、他に2枚だけ見つかりました。

「果物籠」の絵が描かれる直前と少し後のもの。

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Boy with a Basket of Fruit - Wikipedia「果物籠を持つ少年」(1593-1594)

ちょっと妖しげな感じもするこちらの少年の絵は、果物籠にピントがあっていて少年の顔は少しだけアウトフォーカスになっています。

 

そしてカラバッジオの作品の中でも最もよく知られるもののひとつ、「エマオの晩餐」です。カラヴァッジオの絵の中ではやさしく温かい感じのする絵です。

赤い服を着ているのがイエス・キリスト。

周りの人がそれに気づいた瞬間がこの絵なのだそうです。

食卓の一番手前に描かれているのが、知っている人ならあれだなと気づく果物籠。

どう見ても落ちそう。

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ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ - Wikipediaエマオの晩餐」(1601)

果物の種類や盛られ方もかなり「果物籠」とよく似ていて、この絵のキリストの方からだとちょうど「果物籠」の絵のように見えているのではないかと思われます。

 

この絵の果物籠について、りんごといちじくは人間の原罪を表しているとか、黒い葡萄は「死」を、薄い色の葡萄は「復活」を表しているとか、いやいや葡萄はキリストの血だとか、いろいろな人がそれぞれの解釈をしているようです。

落ちそうになっている不安定さも、世界のあり方についての隠喩になっていると言われたり。

謎解きはひとまず置きますが、あの「果物籠」にあまりにも似ていることは気になります。  

他の宗教画や人物画には目につくような「静物」をほとんど描き込んでいない中、この絵にだけはこれほど目立つようにあの果物籠が描かれているのも不思議です。

もしかして「果物籠」は「エマオ」のための習作ですか。

 

5年後カラヴァッジオは「エマオの晩餐」を再び描いています。

果物籠は姿を消し、全体に色味の無い絵です。

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Michelangelo Merisi da Caravaggio - Wikimedia Commonsエマオの晩餐」(1606) 

画家としては早くから認められ大成功をおさめていたカラヴァッジオですが、激しく粗暴な性格、放埓な言動で激動の人生を送ったことでも知られ、この絵が描かれるころまでには暴れて投獄される、殺人を犯し逃亡するなどの事件を繰り返し引き起こしていたとか。

しかし、それまでのルネサンスの均整の取れた完璧な調和のある古典的な世界を、感情的で劇的で真実に迫る新しい表現を用いて切り開き、新しいスタイルを確立し、のちの芸術家に大きな影響を与えたカラヴァッジオの偉業が揺らぐことはありません。

 

その人生は1986年、デレク・ジャーマン監督によって映画化されています。

「果物籠を持つ少年」をモチーフにしたポスター。

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Caravaggio (1986)

 

ユーロに切り替わる前の10万リラのお札にはカラヴァッジオの肖像と「女占い師」の絵。

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100.000 lire - Wikipedia

裏は「果物籠」なんですよ。 

 

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