絵画の中のかご①オランダ絵画の黄金時代の静物画

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華々しい絵画を見つけました。

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File:Jacques Linard - Basket of Flowers - WGA13045.jpg - Wikimedia Commons

17世紀前半にフランスで活躍した画家、ジャック・リナール (Jacques Linard 1597–1645)の「籠の花」です。

ずいぶん昔の絵だったのですね。

日本では江戸時代がやっと始まった頃です。

 

たくさんの種類の花の全部が全部咲き誇っていて、かごの内部にある花も全部こちらを向いていて、四角いキャンバスを四角く埋め尽くすような勢いで描かれています。 

賑々しく押しが強く、赤の印象が強い絵ですけど意外と白の分量も多かったり黄色や青が少しずつ使われていたり、かごが透かし編みの軽やかなものだから不思議な爽やかさも加わったりして独特の浮き立つような感じがあります。

現実味は薄くても花の美しさを表現したい気持ちが伝わってくるよう。

私が気になるかごも色付きの横桟を使っていたり足がついていたりする、素敵なものです。

 

リナールさんのほかのかごの絵も見てみたいと思ったのですが、ほかはほとんど花瓶の花でした。

そのかわり、かごに盛られたフルーツの絵はたくさん。

こう並べてみるとフルーツのかごはオーソドックスな素編みタイプ。

絵の雰囲気も落ち着いていて、わりと写実的な普通の絵のでした。

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Still Life with Fruit 1336243 | National Trust Collections

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Still Life of Earthenware Jug and Basket of Apples 1336244 | National Trust Collections

 

調べていくうちに、似たような構図のかごに入った花の絵がこの時代(17世紀前半)、かなり描かれていることに気が付きました。 

これはほぼ同時期のJohannes Bosschaert(ヨハネス・ボスハールト 1606– 1628)の絵。

筆致が違うけど似た形のかご、花の種類も似ています。

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File:Bosschaert Johannes 02.jpg - Wikimedia Commons

こちらは空間の使い方、構図がリナールに近いです。

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Corbeille de fleurs disposée sur un entablement près doiseaux by Johannes Bosschaert on artnet

 

このヨハネスさんのお父さんというのがオランダ絵画の黄金時代の静物画家として有名なアンブロジウス・ボスハールト(Ambrosius Bosschaert 1573-1621)。

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Category:Google Art Project works by Ambrosius Bosschaert the Elder - Wikimedia Commons

スーパーリアルイラストレーションみたい。

かごの質感、かご編みの技巧の描写はちょっと曖昧。

 

アンブロジウスさんの義弟で後に工房を継いだバルタザール・ファン・デル・アスト(Balthasar van der Ast 1594–1657)の絵。

このパターンがこの一族の得意技になっていったようです。

そしてフランスのリナールに影響を与えたのだと思われます。

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ファイル:Basket-flowers-1622.jpg - Wikipedia

絵のタッチはアンブロジウスさんに近い。

花の絵に貝などを書き入れることを始めた画家のうちの一人なのだそうで静物画に時折出てくるいわゆる「ヴァ二タス」みたいな雰囲気も出てきているんじゃないかと思います。

かごの描写には重きをおいてない感じ。

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Balthasar van der Ast - Wikipedia

 

17世紀のオランダでは、王侯貴族が全てを支配していた時代から貿易や商工業で財を成した裕福な商人が力を持つ時代への移行がすでに始まっていました。

教会や貴族のためでなく、市民のための絵画が多く描かれるようになってきた時代。

もちろん庶民の生活ではこんな大量の花を飾るようなことはないので贅沢なものとして描かれた絵ではあったと思いますが、偉い人や宗教の世界感を構成するパーツとして描かれていた花が、普通の暮らしの一隅を照らすような絵の題材となり、同時に宗教画や歴史画に比べてまだ地位が低かった静物画が少しずつ存在感を増していく、時代の流れです。 

花がかごに盛られているスタイルは骨董品的な花瓶に比べるとカジュアルです。

現代に近い。

だから作成時期のクレジットを見て驚きました。

 

こんな感じで絵画の歴史大きな流れの中に花かごの絵はチラホラと存在しているようです。今も美しいもの、可愛らしいものの典型的な存在です。

200年300年ののち、女性の胸元を飾るブローチのモチーフにもなりました。

絵画が王侯貴族から庶民の方に降りてきた時人気だった花かごモチーフが、現代ではまた英国女王陛下の胸元を飾る。

わからないものです。

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